スピッツの「裸のままで」は、1993年7月25日に発売された6枚目のシングル。同年9月26日発売の4thアルバム『Crispy!』にも収録されています。
この時期のスピッツは、ポップス路線に切り替えて、音をより外に開いていく時期に入っていました。『Crispy!』は、公式サイトでも「共同プロデューサー笹路正徳氏を迎え」たアルバムとして紹介されています。
そう考えると、「裸のままで」は、プロデュースを受けた後のスピッツの決意表明が隠れているようにも見えてきます。
地下=アンダーグラウンド
地下道に響く神の声を
まず気になるのは、「地下道」と「神の声」です。
地下=アンダーグラウンド
つまり、アングラな音楽の世界のことではないかと思います。
かつてスピッツは自分たちのことを、アンダーグラウンドな音楽であるとどこか自認していたところがあった。この時期は、スピッツがアングラ的→ポップス路線の過渡期になります。
地下の音楽室。録音室。小さなライブハウス。
大きな場所ではない、地下の世界で音楽が鳴っている場所。
そこで響いている「神の声」は、アングラな音楽の神様の声に見えます。
自分が憧れてきた音楽。先を走っているバンド。
当時のスピッツを導いていたプロデューサー。
そういう存在の声が、地下で反響している。
「響く」という言葉も、音楽の場面として読むとしっくり来ます。
神の声が、地下に響くと同時に、スピッツ自身にも響いている。
憧れた音楽が、自分の中で鳴り続けている状態にも見えます。
麻酔銃=逃げる音を捕まえる道具
麻酔銃片手に追いかけた
「麻酔銃」という言葉も変です。
普通の銃ではありません。
殺すためではなく、眠らせて捕まえるためのものです。
ここで追いかけているものは、神の声。
つまり、自分が捕まえたい音楽、自分たちが鳴らしたい音ではないかと思います。
でも、それは簡単には捕まらない。聞こえたと思ったら逃げる。
だから麻酔銃を持って追いかけている。あるいは、「追いかけた」という過去形なので、過去を振り返っているのかもしれない。
うつろうつろしながらも、必死に神様の音を捉えようとしている。あるいはしていた。
曲を作る時の、夢と現実のあいだにいるような状態。
その中で、なんとか音を捕まえて、歌にしようとしているのではないかと思います。
地の底=迷い込んだアングラな場所
無くしたすべてを取り戻すのさ 地の底に迷い込んでも
「地の底」という言葉も、地下道とつながります。
地下道から、さらに地の底へ行く。
世界の底へ底へ潜っていくイメージです。
ここも、アングラな世界として読めると思います。
明るい表舞台ではない。売れ筋の世界からは離れた場所。
でも、自分たちが憧れた音楽の場所。
「無くしたすべてを取り戻す」という言葉は、自分たちの感覚を取り戻すことにも見えます。
プロデュースを受ける。音が整理される。
より多くの人に届く形になっていく。
でも、その中で、なくしてしまいそうになるものもある。
だから、地の底まで迷い込んでも取り戻す。
自分たちが最初に憧れたもの。ポップな音の中に潜ませる、アングラな裸のままの自分たち。
そこを取り戻す歌に見えます。
「裸のままで」は、変わらないための歌ではない
離れていたって 君を愛してる
「君を愛してる」という、これまでスピッツが使ってなかった言葉を歌詞に使っています。
ひょっとしたら、“「愛してる」の響きだけで、強くなれる気がしたから” なのかもしれません。
その後、数年経って「チェリー」で再び歌詞の中に、「愛してる」が出てくるのです。
「愛してる」の響きだけで 強くなれる気がしたよ
草野マサムネさんの歌詞には、「愛してる」という言葉は数えるほどしかありません。「チェリー」の後、「つぐみ」「リアリティ」「心の底から」などにも出てきますが、「チェリー」以前にこの言葉が出てくるのは「裸のままで」だけです。→「チェリー」の歌詞考察
「裸のままで」というタイトルは、“ありのまま”というような意味がありそうですが、そもまま変化しないという内容ではないと思います。
むしろ、変わっていくことは理解している。変わらなければいけないとも思っている。なので、「愛してる」という当時のポップスらしい言葉も使う。
でも、その中で「裸」の部分は残す。
ポップの世界に入りながら、自分たちが最初に追いかけた何かは残したまま。
まとめ
「裸のままで」は、少し偏った恋愛の歌としても読めます。
しかし、『Crispy!』を作った、ちょうど同じころのインタビューを読むと、私小説的というか、あるいは内面告白的な内容を含んでいると読んで自然であると思います。
「実は全然美しくもない、むしろ見苦しいような自分のヌード写真集をみんなで喜んで買ってくれて、どうもって感じで(笑)」 出典:『スピッツ』(「ロッキング・オン・ジャパン」1993年9月号)
裸のままで=ヌード写真集。ここもどこか繋がります。「自分をこっそりさらけ出している」という意味もあるように見えます。不思議な言葉の組み合わせの中に、おそらく私小説的な中身があるわけです。
その視点で、地下道、神の声、麻酔銃、地の底という言葉を読んでいくと、スピッツ自身が音楽を追いかけている歌として、かなり強く表れているように感じてしまうわけです。
地下=アンダーグラウンド。
神の声=アングラな音楽の神様。
麻酔銃=逃げる音を捕まえるための道具。
地の底=迷いながら戻っていく、自分たちの音楽の場所。
プロデュースを受けて、ポップに開いていく時期。
その中で、スピッツは「裸のままで」いたかったのではないかと思います。
変わっていく。でも、変わらない。
この曲は、その決意を歌った曲に見えます。

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